2010年1月7日木曜日

黒部丸山・右岩壁の記憶

日程 2009.12.26~2010.1.3

12.26

 


日向山ゲート(9:40)~扇沢(12:00)~大沢小屋(13:45)



朝一の急行電車で糸魚川に到着。大糸線に乗り継いで大町駅に降り立つと、遭対協の尋問を受ける。待合室で朝飯をほうばっていると今回の仲間が到着。駅前で荷分けをしてランクルに乗り込み、日向山ゲートまで送っていただく。ゲート付近は雪がチラチラ舞っているが、入山日としては申し分ない天気だ。
 相変わらず除雪された車道を扇沢まで歩くが、路面が圧雪されてアスファルトがむき出しになっていないのが幸いだ。途中一回の休憩を挟み、扇沢到着。大沢小屋に向かうため除雪された車道からわかん装着で林道へ進入。先日の大寒気による積雪の後に好天が続いたので思いのほか雪は締まっていて歩きやすい。ただ林道をショートカットしようとして藪の中に突っ込むとハマってしまった。沢沿いのアプローチも比較的締まった雪に助けられ、順調に大沢小屋に到着した。順調すぎたので時間はちと早いが、今日の行動は打ち切り、寝不足の東京組にテント設営をお願いし、明日のために1時間ほど散歩に出かけた。


12.27 快晴(大町側は雲海)



出発(5:30)~屏風尾根の頭(10:00)~赤沢岳(12:00)~北西尾根1800m(16:30)



屏風尾根を適度なラッセルで快適に高度を稼ぐと、朝焼けに染まる山々が美しく、冬山に来て良かったと感じる時間が過ぎていく。背後は雲海、頭上には抜けるような青空が広がっている。
 屏風尾根の頭に着いた瞬間、眼下には水を湛えた黒部湖、正面に立山、そしてこれから向かうべき剣岳が彼方に鎮座する。いつもの「あんな所まで歩くのか」と思う瞬間だ。
 赤沢岳から黒部川へ向けて下降、赤沢出合まで降りるつもりだったが様々なトラブルが発生し時間切れ。まぁ、予定以上に進めたので由としよう。


12.28 雪



出発(6:40)~赤沢出合(8:45)~内蔵助谷出合(9:45)~岩屋(11:00)~2pFIX~岩屋(16:00)




 起床時は降ってなかったが、出発間際になってべたべたの雪が降り始める。視界もなくなってきたので地形図とにらめっこしながら高度を下げ、赤沢出合へ。渡渉は飛び石とはいかないが、ちゃぷちゃぷと渡って内蔵助出合を目指す。出合の手前もそこそこの積雪量があったのでスノーブリッジを繋いで渡渉なしで出合到着。
 岩屋で一服してじゃんけん大会。負けたすーさんが残ってテント設営、他の3名が明日に備えてフィックスに向かう。2ルンゼを横断して紅稜ルートの顕著な凹角に取り付く。

じゃんけんで勝ったけーちゃんが嫌々リード。
1p目:ラッセルして凹角に入るが草付きは凍っていないようで、ブッシュの木登りを交えながらハング下の木まで。降雪量が半端なく、上部スラブ帯からの雪崩がビレイヤー・カメラマンを襲い危うく埋まるところだった。
 じゃんけんびりのおらは出番なしの為、明日の荷揚げに備えて邪魔なブッシュを剪定しながらのユマーリングを行う。

2p目:右の顕著な凹角を登って行くのだが、凍っていれば快適なピッチだろう。しかし、今は危険極まりない。案の定、リード中のたにやんが雪崩に襲われるが、ロープにテンションは掛らない。なんとか踏ん張ったようだ。完全にブッ飛ばされたと思ったのだが・・・・

2pフィックスして岩屋に戻り、愛情たっぷりのお茶をいただく。
今日は居残りが正解だったよ!


12.29 快晴



出発(4:30)~終了点(20:00)

 満天の星空の中、今日中に壁を抜けようと意気込んで出発したのだが・・・
 
 まずは昨日のフィックスをユマーリング。たにやんは罰で専属荷揚げ隊員と化す。

3p目:おらリード
ブッシュの雪壁を突破すると緩傾斜帯へ。太陽が壁を照らし始める。4p目のリードを終えてから、すーさんと交代して2p目終了点へ下降する。荷揚げをしていると自分の体臭がニンニク臭くて参った。



4p目:おらリード
緩傾斜の雪壁

5p目:すーさんリード
緩傾斜の雪壁 上部壁の基部まで。 すでに陽が陰る。

6p目:すーさんリード
雪壁を右にトラバース 大凹角の基部まで




7p目:すーさんリード
凹角内の雪を落としながらの奮闘クライミング

8p目:すーさんリード
フェースを抜けるとすーさんの姿が見えなくなる。荷揚げを始めるころにはもう真っ暗だが、月が美しく輝いていた。藪が酷く、2人×2往復の荷揚げの間に1pフィックスしてテントが張られていた。右も左も絶壁、ちょうどテントが張れる分だけのスペースが確保されていた。今日はお座りを覚悟していたので思いもよらないことであった。
 
壁を抜けたと勘違いした安堵感で僕たちは惰眠をむさぼった。



12.30 高曇り(晴れ間あり)~風雪



出発(6:30)~終了点その2(19:00)

まだ暗い時間に出発したので、昨夜自分達が泊まった状態を確認出来ないままだったが、そのほうが良かったかもしれない。
 とりあえず昨日のフィックスを1pユマーリングすると上部は緩い雪壁となるが、尾根は壁となり行く手を遮られる。左のルンゼから抜けることが出来そうだったので、ルンゼに入って傾斜が強くなるところでピッチを切る。さて、良く見るとかなり傾斜があり正面は被り気味。トライしてみるがかなり厳しそうなので戻って左の草付に向かうが15mくらい先のブッシュまでランニングが取れそうにない。草付そのものは悪そうではないのだが、ノーピンでは怖すぎる。ここでエースすーさんに登板して貰うが、正面のハングはやっぱり悪そう。後続からの声で一旦戻って壁の右側から回り込むことにする。けーちゃんが右に伸ばしていくが、途中から、なかなかロープが伸びていかない。かなり苦戦している模様。後続して先の様子を伺うが、回り込むラインは切れ落ち、直上するラインもかなり立っている。結局戻ってルンゼから登るしかないので、すーさんが左の草付にロープを伸ばす。ビレイヤーもかなり緊張させられるが、スムーズに草付をこなしてブッシュ帯を抜け雪壁へ。これで安心と思いきや、ここからが悪かった。使えない雪を崩すとハングした岩が現れプロテクションもろくに取れないようで、気合で突破していった。
 ここでストッパーのおらがロープを伸ばす。木登りを交えながら深雪をラッセルすると傾斜の落ちた尾根に辿り着き、カラマツの大木に囲まれた快適なテン場をゲット。
 本日の獲得標高差100m


12.31 雪 凄まじい



出発(6:50)~平坦地(14:30)~丸山北峰直下(16:30)




露岩正面の凹角にロープを伸ばす。左からも巻いて登れそうだが、確実にプロテクションが取れるほうを選択した。ただ、荷揚げはブッシュで大変そうだった。露岩を越えると腰を越えるラッセルと黒部襞のクライミングだ。襞の中はラッセルも少なく登りやすいのだが、猛烈な降雪で時折凄まじいスノーシャワーを食らう。
 黒部襞を抜けると傾斜が落ちる。しかし、傾斜が落ちるとラッセルが酷く、ほぼ目の前の雪を崩しながらのラッセルは遅々として進まない。正面の露岩を右から巻いて登りきったところで森林限界を越えたので今宵の宿を工事する。
 テントに入って一息いれると、けーちゃんが「足、凍っとる」と言う。ダブルブーツがシングルになるみたいだ。靴が原因か、足が原因なのか知らないが、いつもの事らしい。


1.1 雪 停滞




予報ではかなりの寒気が入っているが、思いのほか降雪量は少なく風も弱い。さほど寒くもない(2000mしかないので当たり前だけど)が、今日は様子見で停滞とする。富山市内は70cm積もったとメールが入る。早月小屋でも2mほど積もったらしいので、剱岳が衝立になっていたのだろう。
 折角の停滞日なのでトランプをするのだが、「何か賭けなきゃ面白くないね」と言うことで行動食を出し合って討ったのだが・・・


1.2 雪 



出発(9:00)~南峰直下(14:40)




色々あって出発が遅れた。雪は降っているが、降雪量も多くはなく昨日までの状態からすると少し締まった感じがする。今日も空身ラッセル隊員2名、荷揚げは適宜様子を見て各自が判断して行った。主峰まで3時間30分、前回は2人で1時間50分。前回との単純比較は出来ないが、思っていたよりは早く主峰に着いてしまった。ただ、今後の天気予報と今の雪の状態、メンバーの休暇や身体の状態を考えると無理やり突っ込むのは判断として正しくないと思う。様々な敗退の理由をつけて南峰に向かうが後ろ髪は引かれる。なにせ最近の長期山行は敗退ばかりである。逃げられないところで停滞するのは仕方がないが、逃げることが出来るところから敢えて突っ込むのは賢い選択とは言えないだろうし、御機嫌斜めの剱岳と勝負しても勝算は低い。山は御機嫌を伺って登らせて頂くのが弱者の論理だ。などと、こじつけながら歩く道のりは辛いものである。
 
もちろん、南峰からの下りも空身ラッセルである。南峰もあっさりと通過し、傾斜が急になる前にタンネに囲まれた絶好のサイトに幕営。


1.3 雪



出発(7:00)~黒部ダム~扇沢~松本 




今回の登山期間中、一番風が強い朝になった。視界もないのでコンパスで方角をきって下るが、尾根は崖となって沢に落ち込んでいくので、周りの地形を確認しながら出来るだけ歩いて下れるところを選びながら進む。途中で2pのフィックスと1回の懸垂を交えて下っていくと、次第に視界が回復しダムが見え、陽が射してきた。
 川床からの登り返しをこなして、トンネルへ。
 「ほぼ遭難者だなぁ」と思いながら、関電のお世話になって扇沢へ下った。